言葉って、偉大だ。
バーティゴ(空間失調症)という言葉を初めて知ったとき。こんなに喩えとして使える表現は、滅多にない。そう、思ったことを記憶している。
バーティゴとは、航空機の操縦者が、自身の機体の左右どころか上下さえ分からなくなったり、何処を飛んでいるのか把握できない状態を言う。
その言葉を知るまでの私は。
普段は賢明な人が、急に“とちくるった行動”をしたとき。どう捉えればよいのか分からなかった。
いつもは聡明な誰かが、自身でも止められない衝動的な行為に走ったときに、理解できなかった。
だが、その言葉を知ってからは。
「ああ、彼女は、いま一瞬、人生のパーティゴなんだ」とか。
「業務過多のうえに、自身の傷の何かに触れると、誰でもあるよね。バーティゴ状態」と考えられるようになった。
言葉を得てからは、視点を変えることができる。人を優しく見ることができる。他人に寛大になれる。
最近、久しぶりに、とある人の、とある行為を見て一瞬、相当怒った。
だが、バーティゴと言う言葉を思い出して、すっと冷静になった。そしてむしろ、その人が、いとおしくなった。